学科紹介
在学生の声(2023年度)
2023年度に寄せられた、在学生の声を紹介します。
学部4年生
数学科の授業の中でやりがいがあったのは、やはりセミナーだと思います。数学科のセミナーは輪読形式であり、指定された教科書のページを予習し、みんなの前で途中式を書きながらわかりやすく説明するというものになります。発表準備の際は、1つの証明に対して何日も考えたり、教科書以外の文献も読んで調べたりします。大変な作業ではありますが、その過程で解法が突然ひらめくこともあるため、わからなくても諦めずに向き合おうとするように自然となりました。また、発表ではどのように話したらみんなに理解してもらいやすいか聞く人の立場に立って考える機会が多くありました。今まで受け身で授業を聞いていた自分としては、発表を通じて先生方の苦労を少し知ることができたような気がします。
課外活動としては「総合」という授業の運営スタッフ活動に2年生のときから参加しています。「総合」は、研究者、作家、NPO法人代表など様々な経歴をもった外部講師の方に講演をしていただく授業であり、学生スタッフが講師の選定や講演依頼、当日の司会進行などを先生方の協力のもと行っています。「総合」スタッフに入って良かったことはたくさんあるのですが、ここでは2つお話ししたいと思います。まず1つ目は、先生方に自分の書いた文章を毎回添削していただいたことです。スタッフの活動の中には、講演依頼の文章や講演の感想文を書く作業があり、自分で一通り書いてから3人の先生方にアドバイスをもらい、それをもとに修正作業を行います。課題で出すレポートなどは基本的に先生からフィードバックをいただかないため、自分の書いた文章がどのくらいまとまっているのか知ることができません。ですが、「総合」スタッフの活動では文章を書く際は必ず先生方に見ていただくため、自分の文章表現の誤りや改善点に気づく機会がたくさんあり、とても勉強になりました。そして2つ目は著名な方々と関わることができたことです。私はメディア出演や講演活動をたくさんされている方々に依頼することが多かったため、ご多忙な中講演を引き受けていただいたときはとても達成感がありました。このような方々に自分から直接コンタクトをとるというのは「総合」スタッフに入っていないとできなかったことなので、とても貴重な経験をさせていただきました。
数学科として、そして総合スタッフとして頑張ることができたのは、自分の人生にとってとても大きな経験になりました。私はもうすぐ卒業を控えており、4月からは金融機関のシステムエンジニアとして働きます。就職活動では、数学科で培われた思考力や「総合」スタッフでの行動力を面接でよく評価していただきました。大学時代に得られたこれらの経験を活かして、社会に出ても頑張っていきたいです。
学部3年生
高校生の皆さんは「大学の数学」についてどのようなイメージをお持ちでしょうか。私が高校生の頃は「大学の数学って高校の数学よりも難しいんでしょ。」くらいのイメージしか持っていませんでした。しかし実際に数学科に入学して思うことは、「大学の数学は高校の数学とは世界が違う」ということです。まず、以下の定義をご覧ください。津田塾大学数学科に入学すると、一年生は「数学序論」という授業で必ず以下の定義を学習します。
f : X → Y を写像とする。
定義1
任意の y ∈ Y に対して、ある x ∈ X が存在し、f(x) = y が成り立つとき、f は全射であるという。
定義2
任意の x_1, x_2 ∈ Xに対して、f(x_1) = f(x_2) ⇒ x_1 = x_2 が成り立つとき、f は単射であるという。
上記の定義を学んだ時、私はパニックになりました。高校の数学で見慣れた言葉、「実数」「関数」「…を求めよ」等が何処にもありません。「任意の…」「ある…」という言葉遣いは何なのか。また X, Y とは何なのか。一体これらの定義は何を言っているのか。何も理解できませんでした。このように、初めて大学の数学を学んだ時は、見知らぬものだらけでした。まるで、別の世界に来てしまった様な感覚になりました。
高校の数学では、「関数」というと「直線・放物線・円」など具体的な対象を扱いました。しかし、大学の数学では「関数」といっても、具体的な対象を扱うことは少なくなります。また上記のように、関数を「一般化」した「写像」というものを使って、その性質について考えていく、といったことが多くあります。数学者の新井紀子先生の言葉をお借りすると、2017年に上野動物園で生まれたパンダの赤ちゃんが「シャンシャン」である、という具体物の話をするのが高校の数学だとしたら、「どのような観点から生物が分類されるべきか」について話すのが大学の数学と言えます。つまり、「目の前にあるもの」について考えるのが高校の数学であり、「目に見えないもの」についても考えなくてはならないのが大学の数学です。
数学科に入学した際、最初に求められるのは、大学の数学の「世界観」に慣れることだと思います。つまり、上記の定義にあるような独特の言葉遣い・記号の使い方、及び「目に見えないもの」について考えること、に慣れることです。しかし入学して間もない頃は、見知らぬものばかり出てきて、戸惑うことが多いかもしれません。よって、私が個人的に考えた、大学の数学に慣れるための「コツ」を一つ共有したいと思います。そのコツとは、「理解することを諦めない」ことです。先程も述べましたが、数学科に入学して間もない頃は、分からないことだらけだと思います。もしかしたら、講義の内容が何一つ理解できず、「自分が大学の数学を理解するなんて、到底無理なことなんだ」と諦めてしまいたくなることも、あるかもしれません。しかし、理解できないことがあっても、「いつか理解できるようになるさ」と前向きに考えるようにしてください。私の経験ですが、「最初に学んだ時は理解できなかったが、時間をおいて考えたら理解できた」ということは多くあります。例えば、私が1年生の頃は、上に挙げた全射・単射が全く理解できませんでした。しかし2年生になって、全射・単射について講義で再び学んだ時、すんなり理解できました。このように、時間を空けたら、分からないことが理解できるようになる場合もあります。ただし、単に理解できる瞬間を待つだけでは、いつまで経っても理解することはできません。これは、種子を土にまいただけでは芽が出ないことと、同じようなものです。種子が芽を出すには、「待つ」他に、2つのことを行う必要があります。それは「知識を身につける」ことと「定期的に栄養を与える」ことです。まず「知識を身につける」とは、数学の定義・定理・公式・証明方法などに関する知識を身につけることです。知識を身につけることはとても大切です。知識が少ないと、疑問を解決することが難しくなります。例えば、ある種子を育てているとします。水をあげたり日光に当てたり、ちゃんと世話をしているのに、なかなか発芽しないとします。実は、ある肥料を与えないと、この種子は発芽しません。しかし、自分はそのことを知りません。これが、「知識が少ない」という状態の一例です。知識が少ない状態では、種子を発芽させるのにかなり苦悩することになります。「ある肥料が必要」ということに、気付けば良いのですが、自分の力ではなかなか思い付かないでしょう。こういう時は、先人の知恵を、あらかじめ身につけておく方が手取り早いです。つまり、あらかじめ知識をたくさん身につけておいた方が、早く問題を解決できると言うことです。数学を勉強する時も同様です。何か理解できないことがあったら、単に「自分の知識が少ない」ということも、原因としてあり得ます。よって、分からないことを理解するためにも、まずはたくさん「知識を身につける」ことが大切です。次に「定期的に栄養を与える」とは、ふとした時に、「もう一度やってみるか」という感じで、疑問について考えることです。この時、自分がそれまでに得た知識を使って、あらゆることを考えてみてください。「考えること」が、「栄養を与える」ことに相当します。もし考えが上手い方向に行けば、「この方針で考えれば疑問が解決しそうだ」とか「少し理解できたかもしれない」という感覚を得られます。いわば、自分の「考え」を栄養として種子に与えることで、種子が成長していくというイメージです。もし、このとき色々考えても分からなかった場合は、また「待つ」、もしくは「知識を身につける」を行ってください。私の考えですが、上記の3つを適当に繰り返すと、頭が勝手に、意識の下層で、分からないことを理解する準備を整えてくれます。そして気がついた時には、準備が終了し、分からなかったことが理解できるようになっています。肝心なのは、すぐに理解できないからといって諦めないことです。諦めずに世話をしていれば種子が芽を出すように、「いつか理解できる時が来る」と信じて考え続けていれば、本当に理解できる瞬間が来ます。理解することを諦めないという信念を抱くことが、大学の数学を理解する上で非常に大切です。
最後に、数学を勉強することの面白さについて、私が個人的に考えたことをお話ししたいと思います。私は、数学を勉強することの面白さは、「発見の喜び」を味わえることにあると思います。「発見の喜び」とはどんなものかというと、例えば、ある問題について何時間も考えているとします。「ああだこうだ」と色んなことを試しても、上手くいかないとします。次第に、「自分の力では解けない問題なのではないか」と自信を失い、どんな荒唐無稽な試みも考えられなくなっていきます。そして「これ以上考えても埒が明かない」と思って、他のことを始めます。すると、毎回ではありませんが、「あ」という感じで、突然ある考えが閃きます。私は、この閃きの瞬間を味わう度に、鋭い喜びを感じます。これが「発見の喜び」です。発見の喜びを味わうと、頭の中が喜びでいっぱいになり、今にも踊り出したくなるような気分になります。歴史的にみて最も顕著な「発見の喜び」は、数学者のアルキメデスの例です。入浴中に、あることを発見したアルキメデスは「ユリイカ!」と叫びながら、全裸のままで町中を走り回ったという話がありますが、「発見の喜び」とは、まさにこのような鋭い喜びのことを指します。もしかしたら皆さんも、高校の数学を勉強する中で、「発見の喜び」を経験したことがあるかもしれません。「発見の喜び」を味わえることは、数学を勉強する醍醐味だと私は思います。また数学の面白いところは、自分の「発見」が正しいかどうかをすぐに確認できる点だと思います。私の偏見ですが、他の理系科目、例えば物理や化学等は、厳密な実験を行わないと、自分の発見が正しいかどうか判断できないと思います。しかし数学は紙とペンさえあれば、発見が正しいかすぐに確かめられます。何なら、紙とペンを使わず、頭の中だけで確かめることも可能です。このように、頭の中で事が済んでしまう点も、数学の魅力の一つだと思います。
「数学の世界」は果てしなく広いです。私は、数学科に入ってもうすぐ4年目になりますが、分からないこと・知らないことがまだまだあるな、と痛感しています。一方、今後どのようなことを学べるのだろうか、どのような「発見の喜び」を味わえるのだろうか、とワクワクしてもいます。「高校の数学を抜け出して、もっと広大な数学の世界を冒険してみたい」という方は、津田塾大学に限らず、ぜひ数学科の門を叩いてみてください。
<参考文献>
岡潔「春宵十話」光文社
久野雄介先生の数学序論講義ノート、及びガイダンス資料
学部2年生
私の津田塾大学数学科での学生生活を紹介します。
数ある授業の中で一番私が楽しみにしている授業はセミナーの授業です。津田塾大学数学科ではセミナーの授業が1年次から行われます。セミナーでは資料の割り振られた箇所を先生や学生の前で解説したり、その内容について意見交換をしたりします。私はセミナーの授業を通してわからないことに向き合うことの大切さを実感しました。解説をするためには資料で省略されている部分や式変形を一つ一つ理解する必要があります。注意深く読み解く中でわかったつもりのまま問題を解いていたことに気づきました。また、わからないことに直面した際の解決への過程は自信や達成感に繋がりました。このような経験は講義や演習の授業以上に参加することが重要になるセミナーならではのものだと感じます。
さらに、私は数学を楽しむ仲間や尊敬する先生方の元で学べることが津田塾大学数学科の魅力だと感じています。一人ではわからなかったことでも共に考えてくれる仲間と共有することで新しい糸口を見つけることができます。学習面だけでなく友達とご飯を食べたり他愛のない会話をしたりすることはわたしにとって心安らぐ大切な時間です。また、少人数の授業も多く先生方に質問しやすい環境も整っています。レポートやテストも丁寧に見てくださり答えだけでなく自身の回答の仕方にも自信が持てるようになりました。
津田塾大学数学科は仲間や先生方に支えられながらも自分のペースでのびのび数学を学ぶことができる場所です。広くて緑が多く落ち着いた雰囲気のキャンパスで、私は楽しく充実した大学生生活を満喫しています。